透析シャント拡張術(シャントPTA)について
蓮田一心会病院 透析シャントセンター長
副院長 正田浩之
【シャントPTAとは?】
- シャント血管に狭窄(せまくなる)や閉塞(つまる)が起きると針を刺しても血液が十分とれず透析ができなくなります。この場合バルーンカテーテルという風船付きカテーテルを用いてシャント血管のつまりを治す治療をすることで、透析が可能となります。
- この治療法をシャントPTAといいます。(VAIVTともいいます)
PTA:Percutaneous Transluminal Angioplasty (経皮的血管拡張術)
VAIVT:Vascular Access Intervention therapy (経皮的バスキュラーアクセス拡張術)
【以下のようなときシャントPTAを考慮】
シャントPTAの実施を考慮すべき症状は以下の通りです。
- シャント音やシャントスリルの減弱または消失
- 脱血不良や脱血不能
- 静脈圧上昇
- 穿刺困難(何回も失敗された…)
- 止血困難(なかなか血がとまらない…)など
⇒まずはシャントエコー検査を実施しPTAの適応を判断します。
【治療の概略】
- まずシャント血管の治療目的部位近くにシースを留置(局所麻酔で)
- 続いてガイドワイヤー(やわらかい針金)とバルーンカテーテルを用いて治療開始(造影剤を注入して血管を写しながら実施)
※造影せずにエコーをみながらシャントPTAを施行する場合もあります
- 人工血管(グラフト)のPTA
基本的に前述と変わりありませんが、人工血管の動脈側吻合部と静脈側吻合部の2方向にシースイントロデューサーを留置することが多いです。血栓閉塞の際は血栓溶解剤(ウロキナーゼ)を注入する場合があります。
【PTAの実際の画像】
(自験例:患者さん承諾済)。
【合併症、危険性について】
シャントPTAは血管内治療(EVT)といわれるものの1つで、十分な経験を積んだDrを中心としたシャントチームが施行する限りにおいては、重大な合併症が発生することはきわめて稀です。約2500例の自験例でも重大合併症はゼロですが、常に以下のような合併症を起こさぬよう注意して施行しております。
- 出血
治療後にシースイントロデューサーを抜去した際の止血不十分等から、しばらくして止血部位から出血が見られることがあります。指先で15分くらい圧迫すればほとんど止まります。ご心配でしたらすぐに当院にご連絡下さい。 - 内出血
シースイントロデューサーの挿入部やバルーンカテーテルで拡張した部位にみられることがあります。時間経過とともに自然と改善します。 - 感染
施行後にシャント肢の一部に熱感、発赤がみられる場合、細菌感染を疑います。当院では予防的に抗生剤を服用していただいております。 - 血管損傷
ガイドワイヤーによる血管穿孔やバルーンカテーテル拡張による血管破裂が起こるといわれていますが、適切に手技を行えばまず起こりません。万一起きた場合は表面から圧迫しますが、手術での止血処置が必要な場合もあります。 - 早期シャント血管閉塞
何らかの理由で、バルーン拡張した部位が早期に血栓閉塞することがあり、その際は再度PTAを施行しますが、手術を選択する場合もあります。 - 不成功
PTAが不成功の場合、透析を実施するために、一時的に首の内頸静脈か足の付け根の大腿静脈に透析用カテーテルを留置する場合があります。その上でシャント再建手術を予定します。 - 麻酔剤アレルギー
過去のアレルギー歴を十分お聞きし、適切に対応いたします。 - 造影剤アレルギー
血管を描写するために造影剤を血管内に注入してPTAを施行します。過去のアレルギー歴を十分お聞きし、万一起きた際には適切に対応いたします。
造影剤アレルギーでは以下のような症状がみられます。- 急性副作用:造影剤は比較的安全な薬ですが、他の薬と同様に過敏症による副作用が出現することがあります。
- 〈軽症〉
- 吐気、嘔吐、蕁麻疹、発疹など(100~200 人に1人)。
- 〈重症〉
- 血圧低下、息苦しさ、意識消失(1 万~2万人に1人)。アドレナリン皮下注射や点滴、抗アレルギー薬などの治療が必要です。
極めて稀ですが死亡に至った例もあります。(10 万~20 万人に1人)。
- 遅発性副作用:稀に、検査後数時間以降に発疹などの症状が出ることがありますが、多くは軽度なものです。
※基本的に、当院ではエコー下でシャントPTAを行っております。血管の病変によっては透視装置を併用しますが、造影剤アレルギーについては十分注意してまいります。
- 急性副作用:造影剤は比較的安全な薬ですが、他の薬と同様に過敏症による副作用が出現することがあります。
【代替療法】
シャントPTAの代わりとなる治療方法には以下の2つがあります。
- シャント再建手術を施行する。(別の部位で新たなシャントを作る)
- 透析用カテーテルの長期留置用のものを、首の内頸静脈か足の付け根の大腿静脈に留置する。(ふつう3か月~1年くらい使用可能)
【その他】
- 基本的に日帰りで行いますが、ご希望の場合は入院対応も可能です。
- バルーンカテーテル拡張中に強い痛みを感じることもあるので、拡張部位に局所麻酔剤を注入してから拡張を行うように心がけています。
- PTA施行日には入浴をお控え下さい。